教員紹介

ブラジルの都市住宅政策および日本におけるブラジル人移住者支援政策を解明

2022年11月8日

山崎圭一教授は、ブラジルのソーシャル・ハウジング促進のための住宅金融制度の特徴を、国際比較を通じて明らかにしました。またエリア・スタディのブラジル研究者として、在日ブラジル人への支援策を、co-production(協働)論として研究中です。

発展途上国の貧困を象徴する現象には、飢餓、栄養失調、高い妊産婦死亡率などいくつかありますが、1つは、スラムといわれる低質な居住環境の問題です。過去約20年にわたり途上国経済は成長し、各地で貧困問題はかなり改善したのですが、住宅問題は続き、全世界においてスラム人口はむしろ増えました。ブラジルは、BRICSの1国として注目され、急成長しましたが、スラム人口は増えました。貧困者の所得が低いことは原因の1つですが、それだけではなく、公営住宅の供給不足や公的な抵当ローンの整備が不十分であることも、原因です。ブラジルは、日本でいう財政投融資制度(公的融資制度)が比較的発達した途上国ですが、諸外国と比べると、十分に住宅金融が発展していないという特徴があることを解明しました。すなわち、高金利、住宅の抵当価値の低さ、個人の借金キャパシティの相対的な低さなどです。

また本学の地域交流科目(地域実践教育研究センター)の事業として2005年頃に始めた研究が、在日ブラジル人の子どもたちの学習支援の問題で、横浜市鶴見区でのco-production(市民協働)の事例などを、NPO法人ABC Japanの活動にボランティアとして少し関わりながら、研究しています。

これらの研究成果(共著含む)は、以下で公表しました。
2017年11月にブラジリアで開催されたLAWLE2017+EPRGでの招待発表(英語による/テーマはブラジルの住宅政策)、『立命館経済学』(第65巻第6号)、『エコノミア』(第63巻第1号)、Brazil-Japan Cooperation: From Complementarity to Shared Value (ed. by N. Hamaguchi and D. Ramos, Springer, 2022)、Journal of Urban Affairs (online publication, September 28, 2022)、Asia Pacific Journal of Public Administration (Vol. 42, No.3)、 Local Government Studies (Vol. 46, No.6)、International Journal of Public Administration (Vol.41, No.9)など。

説明:これは、世界各国のマネー・ストックとスラム居住人口の相関関係が、弱い逆相関の関係にあることを示した図です(相関係数:-0.408)。マネー・ストックの規模が大きいほどスラム人口が少ないという傾向が、強くはないが、認められます。マネー・ストックは融資量を含む概念なので、金融の深化(住宅ローンの普及など)が住宅問題の解決と関係する可能性を示しています。

出所:Yamazaki and Bugarin (2022, p.159)のTable 6.8。
説明:これは神奈川県における外国人居住者の国籍別集住地区の相関を示した図です。ブラジル人が多く居住する区には、ペルー人、ベトナム人も多く居住している傾向が認められます。神奈川県におけるブラジル人への支援策を考える上での基礎的データの1つです(ただし直接かつ具体的な政策的示唆を引き出せるデータではありません)。

書誌情報

山崎圭一「先進国との国際比較によるブラジル住宅政策の特徴と課題」(『立命館経済学』第65巻第6号)、pp.74-88。
リポジトリ:http://hdl.handle.net/10367/8184新しいウィンドウが開きます

山崎圭一「ブラジル労働者政権下での都市住宅政策の新自由主義的性格―ボトム・ミリオンの未救済―」(『エコノミア』第63巻第1号)、pp. 95-114。
リポジトリ:http://hdl.handle.net/10131/8913新しいウィンドウが開きます

Keiichi Yamazaki and Mauricio Bugarin, “(Chapter 6) Brazilian Workers in Japan and Public Policies for Promoting Their Social Integration with a Focus on Basic Education for Children”. in N. Hamaguchi and D.Ramos (eds.) Brazil-Japan Cooperation: From Complementarity to Shared Value, Springer, 2022.

Keiichi Yamazaki, Brian Dollery and Yukio Kinoshita, “Local Factors Sustaining Local Co-production: Two Cases Studies from Yokohama, Japan”, Journal of Urban Affairs, published online in September 2022.
DOI:https://doi.org/10.1080/07352166.2022.2095916新しいウィンドウが開きます

Yukio Kinoshita, Brian Dollery and Keiichi Yamazaki, “Creating Institutional Advantage: Local Government Co-production with Community Groups”, Asia Pacific Journal of Public Administration, Vol. 42, No. 3, pp.170-187.
DOI:https://doi.org/10.1080/23276665.2020.1776624新しいウィンドウが開きます

- Brian Dollery, Yukio Kinoshita and Keiichi Yamazaki, “Humanitarian co-production in local government: the case of natural disaster volunteering in Japan”, Local Government Studies, Vol.46, No.6, pp.959-978.
DOI:https://doi.org/10.1080/03003930.2019.1702531新しいウィンドウが開きます

研究者情報
山崎圭一 :研究者総覧新しいウィンドウが開きます