教員紹介
2021年5月31日
茂住政一郎准教授は、アメリカ連邦財政を事例に、政治的多数派かつ主たる財源負担者である中間層に対する給付の小ささと、租税支出と呼ばれる租税負担軽減措置への依存が、人々の政府や財政に対する信頼を掘り崩すと同時に、納税者間の対立と相互不信を生む要因となっていることを明らかにしました。
私の専門とする財政社会学は、「政府のお金の使い方によって、社会や人々の心に表れる変化、その変化が財政及び『私たち』に与える影響」を考察し、取られうる対策を考える研究領域です。この観点からアメリカ連邦財政を分析すると、社会保障給付や教育に対する支出が小さく、特定の人々や企業の税負担を軽減する租税支出を「間接的な給付」として多用してきたという歴史的特質が、連邦税収を掘り崩し、社会的なニーズの変化に対する柔軟な対応を困難にし、政府や連邦財政に対する人々の信頼を掘り崩してきたことを見いだすことができます。
本研究では、アメリカ連邦財政制度の下で、①公的な給付の受益が低所得層に、租税支出の受益が富裕層に著しく偏っており、中間層の受益が極めて小さいこと、②そのことが政治的多数派かつ主たる租税負担者である中間層の連邦政府や連邦財政に対する信頼を掘り崩していること、③租税支出のもたらす税制の複雑さと①の給付の構造が、納税者間の対立と相互不信を生んでいることを明らかにしました。
本研究成果は、高端正幸他編[近刊]『揺れる福祉国家と中間層』に収録されます。